東京高等裁判所 昭和45年(ネ)1073号 判決 1971年11月11日
主文
本件控訴および附帯控訴をいずれも棄却する(但し、原判決主文第一項中「一〇〇ポイド」とあるのを「八万六、四〇〇円」と改める)。
控訴費用は控訴人の、附帯控訴費用は附帯控訴人の各負担とする。
事実
控訴代理人は、「1原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。2被控訴人は控訴人に対し金一四九万三、四八四円およびこれに対する昭和四三年三月二二日から右支払いずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。3訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」旨の判決ならびに右2の部分につき仮執行の宣言を求め、被控訴(附帯控訴)代理人は、控訴棄却の判決を求め、附帯控訴として「原判決中被控訴人(附帯控訴人―以下、単に被控訴人という)敗訴の部分を取り消す。控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、控訴(附帯被控訴)代理人は附帯控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張、ならびに、証拠の提出、援用および認否は、次に、補充し、附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一 控訴代理人は、次のように述べた。
1 一ポンドの為替相場は本訴請求当時八六四円であつた。
2 本件船積指図書(甲第一号証)は、「一ケース不足」と記載されたうえ、ベンロイヤル号(以下、本船という)の出航前に被控訴人に交付されたものである。
3 本件貨物について本船上における受け渡しの際、本船側には大日本船舶検数協会の検数員が立ち会い、被控訴人側には全日本検数協会の検数員が立ち会つて、受け渡しをしたところ、七五ケースあるべきものが七四ケースしかなかつたので、前記船積指図書には「一ケース不足詮議発見の際は引渡のこと」という摘要の記載がなされたのであり、本船陸揚地である高雄(カオシユン)港で揚荷の際にも「一ケース#2」の不足であることが確認されている。そして右紛失について本船寄港地全般に再調査しても現われなかつたのであるから本船には積み込まれなかつたことが明らかである。それ故、本件紛失事故は、被控訴人保管中に生じたものである。
二 被控訴代理人は、次のように述べた。
1 一1および2の控訴人主張事実はいずれも認める。
2 被控訴人は、本件紛失貨物を含むポリバリコン部品七五ケースを先ず岸壁に行先別に積み上げたが、全日本検数協会佐野豊臣担当の検数、日本海事検定協会小松勝利担当の検量により高雄向けポリバリコン七五個を誤りなく艀舟第一一義男丸一番船尾に積み込み、同艀舟船頭高橋和男は、これと同舟中央部に積み込んだロンドン向け貨物二一六個、同じく船首に積み込んだハンブルグ向け貨物四一〇個と共に幌をかぶせ、一路本船に向い、なんら事故なく艀舟を本船につけ、あとは本船の指示に従つたのであるから、被控訴会社の運送はこの時点または遅くとも貨物が本船のデリツクにかけられた時点に終了したことになる。なお船積指図書(甲第一号証)に「一ケース不足詮議発見の際は引き渡しのこと」と記載されているが右にいわゆる不足詮議というのは不足しているかも知れないとの意味に慣用されているのであるから紛失貨物が本船に積み込まれなかつた趣旨の記載ではない。
3 本件のように輸出品などの貨物につき貨物損害保険契約が締結されている場合には、荷主はその保険で十分損害をカバーし得るから、被控訴人は、保険に付せられた危険による損害につき、その賠償に応ずる必要がない。
三 証拠(省略)
理由
一 当裁判所は、金八万六、四〇〇円およびこれに対する昭和四三年三月二二日から右支払いずみに至るまで年六分の割合による金員の支払いを求める限度において控訴人の被控訴人に対する請求を正当であり、その余の請求を失当であるとするものであつて、その事実認定およびこれに伴う判断は、次に附加、補正するほか、原判決がその理由中に説示するところ(原判決六枚目―記録三二丁―表三行目から原判決九枚目―記録三五丁―裏五ないし六行目「理由がある」まで)と同一であるから、その記載を引用する(但し、末尾を「正当である。」と改める)。
1 原判決六枚目―記録三二丁―裏三行目「成立に争いない」から同六行目「各証言によれば、」までを次のように改める。
「本件船積指図書(甲第一号証)が摘要として『一ケース不足詮議発見の際は引渡のこと』と記載されて本船出港前に被控訴人に交付されたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によつて成立を認める甲第三号証によれば、昭和四二年三月三一日付全日本検数協会横浜支部の照会により本船陸揚地である高雄港で揚荷の際になされた本船船艙調査の際にもナンバー二ケース入りポリバリコン等組立部品は発見されなかつたことが認められ、以上の事実に原審証人永作房治の供述により成立を認める甲第一号証、原審証人長井健次の供述および弁論の全趣旨により成立を認める甲第六ないし第八号証、原審証人粟野優、同長井健次、原審および当審証人高橋和男の各供述をあわせると、」
2 原判決七枚目―記録三三丁―裏一〇行目「右認定に反する」から原判決八枚目―記録三四丁―表一行目までを次のように改める。
「原審証人清末和彦の供述中、被控訴人が事故防止のシステムを作つて事故当時十分注意したとの部分は抽象的であつて右認定の妨げとはならない。もつとも、原審および当審における証人高橋和男の供述には、同人は、第一一義勇丸で当時新山下倉庫附近の岸壁から本船まで、荷物にシートを掛け、ロープで結んだ上から屋根をはめこんで運び、右艀が岸壁から本船に向う途中監視していたが、荷物が海中に落ちたのを見なかつたというのである。しかし、右供述によれば、同証人は当日急に乗船することとなつたので、艀に荷物を積むときの状況も見ておらず、荷物の数量も当つていなかつたことが明らかであるから、右供述によつて前認定を動かすことはできず、成立に争いのない乙第四号証、当審証人佐野豊臣の供述によつてもこれを左右するに足らず(成立に争いのない甲第五号証参照)、他にこれを動かすだけの証拠はない。なお、被控訴人は、本船側が船荷証券を発行したから、責任は本船側にあつて被控訴人にないと主張し、原審証人今井幸三郎の第一回供述によつて成立を認める乙第二号証の一、二によれば、本件事故後本船側代理店から無留保の船荷証券の発行されたことが認められる。しかし、原審証人永作房治の供述およびこれによつて原本の存在および成立を認める甲第一二号証によれば、右のように無留保の船荷証券が発行されたのは、安宅産業株式会社から本船側に対し、これによつて本船側の蒙ることあるべき本件貨物に、ついての費用、損害につき同会社において本船側を無責とすることを保証する旨約し、その旨の保証状を差し入れたことによるものであることが認められるので右船荷証券がかようないきさつにより無留保で発行されたことは、被控訴人と安宅産業株式会社ないしミツミ電機株式会社との間の権利関係になんらの消長を及ぼすものではない。それ故被控訴人の右の主張もまた採用の限りではない。」
3 原判決八枚目―記録三四丁―表七行目「証人今井幸三郎」から同九行目「証言」までを「原審証人今井幸三郎(第一回)の供述および弁論の全趣旨によつて成立を認める乙第二号証の二、三、右供述および原審証人今井幸三郎(第二回)の供述」と改め、同裏一〇行目に「証人今井幸三郎(第一、二回)とあるのを「原審(第一、二回)および当審証人今井幸三郎」と改める。
4 原判決九枚目―記録三五丁―表末行「認められない。」から同裏四行目までを次のように改める。
「認められない。なお、被控訴人は、事実摘示二3のとおり主張するが、前顕乙第一号証によれば、被控訴会社の港湾運送約款二〇条一〇号に『当社は、下の事由によつて生じた貨物の滅失、毀損、延着については損害賠償の責に任じない。一〇 保険に付せられた危険』との規定はあるが、その趣旨は保険者の代位に対する損害賠償の責任まで免れる趣旨ではなく、保険者の支払を経由しない直接の損害賠償請求には応じない趣旨であると解するのが相当であり、被控訴人の所論は運送人側に故意過失ある場合にも保険者代位の途までとざす不当な結果を招くものであるから、右の主張はこれを採用しない。そして、一ポンドの本訴請求当時の為替相場が八六四円であつたことは当事者間に争いがない。
してみれば、被控訴人(被告)は控訴人(原告)に対し金八万六、四〇〇円およびこれに対する本件訴状送達の日であることが記録上明かである昭和四三年三月二二日から右支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による損害金を支払う義務を負うことは明らかである。」
二 よつて、本件控訴および附帯控訴は、いずれも理由がないので民訴法三八四条(三七四条)によつてこれを棄却することとし、原判決主文第一項中に「一〇〇ポンド」とあるのは、これを「八万六、四〇〇円」と改めることとし、控訴費用は同法八九条九五条により控訴人に、附帯控訴費用は同法八九条九五条三七四条により附帯控訴人に、負担させることとして、主文のとおり判決する。